研究概要 |
徳島県沿岸で採集したAncorina属海綿のメタノール抽出物を溶媒分画すると,1-ブタノール可溶部に,イトマキヒトデの胚発生を胞胚形成の段階で阻害する強い活性が認められた。1-ブタノール可溶部を逆相カラムコロマト分画したのち,活性画分を逆相HPLCで精製して活性物質を1を単離し,アンコリノシドAと命名した。1は,HRFABMS,各種2D-NMRスペクトル等から,N-メチルテトラミン酸構造を持つ新規配糖体であると決定した。 アンコリノシドA(1)を酸化水分解後,水可溶部とクルルホルム可溶部に分画した。水可溶部に含まれる糖類は,水素化シアノホウ素ナトリウム存在下でL-フェニルエチルアミンと還元的に縮合して1-(L-α-メチルベンジルアミノ)-1-デオキシアルジトールへと誘導し,その後トリメチルシリル化して標品とのco-GLCおよびGC-MS分析を行うことにより,D-グルコースおよびD-ガラクツロン酸と決定した。また,酸化水分解時に得られたクルルホルム可溶部を酸化的に分解して得られたアミノ酸を,マ-フィー法によってHPLC分析を行うことによりN-メチル-D-アスパラギン酸と決定した。以上の結果より,アンコリノシドA(1)の構造は,(5R)-5-カルボキシメチル-3-(22-O(β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-ガラクトピラノシルウロン酸)-1-ヒドロキシドコシリデン)-1-メチル-2,4-ピロリジンジオンであることを明らかにした。 アンコリノシドA(1)を0.4μg/ml以上の濃度でイオマキヒトデの受精卵に加えると,イトマキヒトデの胚発生に対して128細胞期までは全く影響を与えないが,256-512細胞期すなわち胞胚形成の段階で胚発生を選択的に停止させた。化合物は1は,10μg/ml以下の濃度では,がん細胞(L1210,K-562,MOLT-4)の細胞増殖に影響を与えないことからも,選択性の高い細胞機能阻害物質であることが示された。
|