サイクリン依存性キナーゼのなかで、細胞周期のG2期からM期への移行を制御するcdc2キナーゼと、脳に特異的に存在し細胞骨格の制御に働くと考えられるcdk5について、これら酵素の基質認識特異性を解析し、その結果を基に拮抗阻害剤を開発することを第一の目的とする。これまでに、中間径フィラメント蛋白質であるビメンチン、デスミン、ニューロフィラメント蛋白質や、核蛋白質であるヒストンH1のリン酸化部位に由来するペプチドを合成し、ペプチドの構造と基質活性を検討した。なぜなら、良好な基質構造を検索し、その構造を一部改変することによって高活性な阻害剤が得られる可能性があるからである。また、種々の酵素分解による失活を防ぐ構造を阻害剤に付与する必要がある。これらの観点から、現在、上記蛋白質のリン酸化部位を含む環状型ペプチドおよびレトロインバーソ型ペプチドのデザイン、合成およびリン酸化能の検討を行っている。環状型ペプチドの合成は、固相法でFmocアミノ酸を用いて行い、リン酸化部位付近の環状化は、固相樹脂上で側鎖間(アミノ基とカルボキシル基)の脱水縮合によって行った。得られたペプチドの同定は、アミノ酸分析や質量分析などによった。環状型ペプチドのなかで、ヒストノおよびビメンチン由来のペプチドがcdc2キナーゼによって有意にリン酸化を受けることが示された。ペプチドの立体構造を知る目的で、円偏光二色性スペクトルを測定したところ、ターン構造の存在が示唆された。この結果は、リン酸化部位周辺の立体構造とリン酸化能との関係について有用な知見を与えた。そして、阻害剤の候補の一つとして環状型の可能性が考えられた。一方、レトロインバーソ型ペプチドのデザイン、合製法の検討を行っている。特に固相合成に用いる樹脂は特殊なものが要求されるため、その合成を行っている。次年度にこうした樹脂を用いたペプチド合成とリン酸化能の検討、阻害剤への応用などへ発展させる予定である。
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