研究概要 |
生物は代謝の過程で生じる強い毒性の化合物、特に、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素を中和するさまざまな機構を発達させてきた。それにもかかわらず、これらの活性酸素種は種々の疾病、例えば、アテローム性動脈硬化症、炎症、パーキンソン氏病、虚血性心疾患などを引き起こすことが証明されている。我々は最近微生物から単離されている天然のラジカルスカベンジャーの医薬への応用を目指し、それらの合成法の確立と合成品の機能に関する研究に着手した。 平成9年度は、東京大学応用微生物研究所の瀬戸教授らのグループが放線菌Streptomuces viridochromogenesから単離したラジカルスカベンジャーStealthin Aおよび放線菌Streptomyces purunicolorから単離したラジカルスカベンジャーBenthocyanin Aの合成研究を行いつぎのような成果を得た。 1.Stealthin AおよびStealthin Cの合成ルートを確立し、それぞれの物理的性質を明らかにした。その結果、不安定ではあるが(空気酸化されやすい)強い還元性を持つことが明らかとなった。これらの結果については、J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1に投稿し、1998年2月に掲載された。 2.Benthocyanin Aについては、2-プロモ-3-ニトロ安息香酸とm-アミノアニソールから、基本骨格に相当する、8-メトキシフェナジン-1-カルボン酸の合成に成功した。現在、このフェナジン骨格にさらに5員環ラクトンを縮合させるルートを開発中である。これらの成果は1998年3月に開催される日本化学会第74春季年会で発表の予定である。 以上、珍しい構造を持つ、Stealthin Cの世界で初めての合成に成功し、その性質を明らかにしたことは、天然物有機化学に多大の貢献をなすもので、今後ラジカルスカベンジャーの作用機構の研究に有力な手段を提供するものである。
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