妊娠期から授乳期にかけて観察されたマウス乳腺糖鎖の顕著な変化を誘導する機序とその役割を明らかにするために妊娠後期乳腺の初代培養細胞とSV-40A255不死化乳腺細胞を用いて実験を行った。 コルチゾールと上皮成長因子を含む基本培地で生育させた初代培養細胞はプロラクチン単独刺激で乳分泌を開始した。この変化と連動した糖転移酵素はGM1b α2-6シアル酸転移酵素とセラミドラクトシドβ1-4Nアセチルガラクトサミン転移酵素であって両酵素の作用によってGD1αの急激な増加が引き起こされていることが分かった。同時にコレステロール硫酸基転移酵素の活性化も観察されたが、この酵素は上皮成長因子単独刺激でも誘導され、乳腺上皮細胞の増殖と連動していることが分かった。不死化細胞では同様の条件でコレステロール硫酸基転移酵素が誘導されるが、GD1αの誘導は見られなかった。遺伝子レベルでこれらの酵素の活性が調節されていた。上皮細胞の増殖と連動したコレステロール硫酸の役割を探る目的で、生体内の分布状況を調べた結果、各種酵素の作用から、上皮細胞を保護する役割を想定した。予想通り、コレステロール硫酸は各種セリンプロテアーゼや、DNAアーゼ、糖分解酵素の強力な阻害剤となることが明らかになった。乳腺においても上皮細胞の増殖と連動して合成を促進することにより、乳分泌の過程で乳中に放出される各種酵素の阻害作用を通じて乳腺上皮を保護していると予想される。一方、GD1αは脂肪球皮膜の酸性荷電の主要成分となっており、ボツリヌスA型とE型、破傷風の毒素受容体活性を持っていることが分かった。脂肪球のシアル酸除去は脂肪球の凝集等を引き起こさず、また、形状にも影響を与えないことから、細菌受容体として胎児を保護するのが主要な役割であることが分かった。
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