研究概要 |
今年度は、ファルネシル基と特異的に相互作用をする蛋白質を探索する為、化学合成したプレニルシステイン残基を含むオリゴペプチドをリガンドにしたアフィニティークロマトグラフィーを試みた。リガンドは、以下の3種類を化学合成した。Ki-rasのC末端のシステイン残基を含むヘプタペプチド(SKTKC)のN末端のセリンをビオチン化した。その後、システイン残基をファルネシル化し、システインのカルボキシル基をメチル化したもの(♯1)と、メチル化しないもの(♯2)をそれぞれ分離精製した。また、システイン残基未修飾のリガンド(♯3)も作製した。これら3種類のアフィニティーリガンドを用いて、ラット脳由来の細胞質画分に、ファルネシル基と特異的に相互作用する蛋白質があるかどうか調べた。その結果、リガンド♯1と特異的に相互作用する蛋白質の存在が確認され。その中でも、分子量約50kDa(P50)と90kDa(P90)の蛋白質が顕著であった。この2種類の蛋白質の構造を解析するため、それぞれの蛋白質をラット脳細胞質画分から2種類のクロマトグラフィー(DE52、MonoQ)で分離精製後、アフィニティクロマトグラフィーで更に濃縮した。これらの蛋白質のアミノ酸配列を決定する為、PVDE膜に転写して、目的の蛋白質を大量に回収した。回収したそれぞれの蛋白質をLysyl endopeptidaseで加水分解後、ペプチド断片を逆相HPLCで精製した。得られたペプチド断片のアミノ酸配列決定したところP50はα,β-チューブリンの混合物であった。一方、P90は、α,β-熱ショック蛋白質90(HSP90)の混合物であった。またP90とファルネシル基との相互作用は、ATP処理によって増強されることが示唆された。これは、ATPによるP90のコンホ-メーション変化によって、P90とプレニル基との結合がより強くなった為ではないかと考えられる。HSP90はストレス蛋白質として知られているが、細胞内では分子シャペロンとして機能していることが示唆されていることから、生合成されたプレニル化蛋白質は細胞質内ではHSP90と複合体を形成し、形質膜へターゲティングされる可能性も考えられるが、実際in vivoでこの様なターゲティング機構があるかどうか今後検討しなければならない。
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