研究概要 |
プロスタグランジンD_2合成酵素(PGDS)はプロスタグランジンH_2からプロスタグランジンD_2への異性化を触媒し、睡眠等の脳内活動の制御に関与する重要な酵素である。しかしながら、9,11-エピジオキシ基に特異的に作用するという興味深い性質を持つにも関わらず、その反応機構は解明されていない。PGDSはアミノ酸配列の相同性から疎水性低分子輸送に関与するリポカリンファミリーに属するが、このファミリー中で唯一酵素活性を有している。また、PGD合成酵素がレチノイン酸と強く結合することも示されている。そこで、本研究ではNMRを用いた溶液中の立体構造解析によりPGDSの反応機構を解明することを目的として、試料の大量発現系の構築及びNMRスペクトルの測定を行った。NMR測定に必要な20-40mgの試料を効率的かつ経済的に得るために、1-2Lの大腸菌培養でNMR測定に必要な量を確保出来るようにした。既にPGDSのcDNAはラットより純化DNAの形で単離され、大腸菌K2株の誘導体JM109をベクターとしてプラスミドpUC119に組み込まれているる培養条件、精製条件の検討を行いLB培地及びM9最小培地で目的蛋白質10mg/L-20mg/L以上の収量を達成した。そして、M9最小培地で大腸菌の栄養源に^<13>Cラベル化グルコース、^<15>Nラベル化塩化アンモニウムを用いて産出される蛋白質を100%NMR観測可能な安定同位体でラベルした。安定同位体ラベルした蛋白質のNMR試料を用いて2次元及び3次元NMRスペクトルの測定を行ない、PGDSのNMRシグナルの帰属を行った。多次元NMR法を用いることによりシグナルの分離が達成されシグナルの重なり合いの問題が解消された。得られたシグナル帰属をもとに主鎖間のNOE情報等によりPGDS中にローシート構造を見いだした。^<15>N-^1H HMQCスペクトルの結果から約3%の主鎖アミドプロトンのNMRシグナルに顕著な線幅増大が観測され、PGDS中にフレキシブルな領域が存在することが明らかとなった。このことはPGDSがレチノイン酸とPGH_2の両方と結合できることと関連していると考えられた。
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