エンドHSの従来の精製法に改良を加た。すなわち、キチンを担体とするカラムクロマトグラフィーが極めて有効で活性の損失なしに約100倍精製でき、さらにMonoQ5/5を用いるHPLCで、3つのマルチプルフォーム(MF)を完全に分離できた。これはMFの分子量は同じであるが等電点が異なっていた。改良法によるエンドHS全体の活性回収率は80%以上であった。エンドHS-II標品は約15%の純度であったが、エンドHS-IおよびエンドHS-IIは純化タンパクとして、それぞれ約67pmoleおよび240pmole精製できたが、アミノ酸部分配列の決定には不十分であった。ヒト口腔内上皮細胞におけるエンドHSの存在量は予想以上に少なく、N-末端アミノ酸配列も含めた部分アミノ酸配列の決定に必要な量のエンドHSを得るには、少なくとも5〜10リットルのヒト唾液からの口腔内上皮細胞が必要であると考えられた。一方、エンドHSの3種のMFが得られたので、タンパク部分は同一で糖鎖構造の異なる糖タンパク、糖鎖構造もタンパク構造も異なる各種糖タンパクおよび糖アスパラギンの各種糖鎖に対する作用をMF間で比較検討した結果、いずれのMFもコンプレックス型糖鎖に特異的で、糖鎖の還元末端GlcNacに結合するFucや側鎖に結合するSiaやFucおよびbiscetingGlcNAcの存在にかかわらず、2、3、4本鎖コンプレックス型糖鎖に作用た。また、ネイティブ糖タンパクや糖アスパラギンからコンプレックス型糖鎖を遊離させる一方、ハイマンノース型糖鎖や、ハイブリッド型糖鎖をもつ糖タンンパクや糖アスパラギンには作用しなかった。以上、得られた本研究結果をもとに、動物細胞がコンプレックス型糖鎖合成系を獲得し、糖タンパクにコンプレックス型糖鎖が付加されるようになると同時に、細胞の発生、分化に相応してコンプレックス型糖鎖の消長をコントロールするために必要な酵素分子として分子進化の結果、エンドHSが出現したものと推測した。
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