MybのDNA結合ドメインは約50アミノ酸をひとつの単位とする3つのリピート構造から成っている(N端側からリピート1、2、3)。NMRによる構造解析の結果、各リピートは非常によく似た構造を有しているが、リピート2のみが構造の揺らぎ(ナノ秒オーダーできっちりとした構造をとる状態と壊れた状態の間を揺れ動いている)を持つことが明らかとなった。そしてこの構造の揺らぎはリピート2の蛋白質内部の疎水性コア中に存在する隙間(cavity)のためであることが、このcavityを埋めた変異体を用いた実験から明らかにされた。この構造の揺らぎは特異DNA配列への結合、および転写の活性化に必須であることも示された。リピート2内にはシステイン残基がひとつあり、この領域の構造の揺らぎのために蛋白質の内部を向いている時と、溶媒側を向いている時がある。したがって、溶媒側を向いている時には酸化・還元に関与する制御因子と接触することが可能であり、酸化・還元によるDNA結合活性の制御の可能性が示唆された。実際にMybのDNA結合活性は酸化剤で阻害され、リピート2内このシステイン残基をアラニンに変えるとDNA結合活性は無くなる。したがって今後、DNA結合ドメイン内の特異的システイン残基の酸化・還元反応を標的とした阻害剤の開発を進めることが可能である。
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