研究概要 |
DNAの塩基配列を特異的に認識し、転写を調節する因子(転写調節因子)の一つであるMybというがん遺伝子産物について、DNAの認識様式とMybの構造的揺らぎとの関連を、核磁気共鳴(NMR)法を用いて解析した。MybのDNA結合ドメインは3つのサブドメイン(R1,R2,R3)からなっていて、それぞれヘリックス・ターン・ヘリックス関連モチーフを持ち、R2とR3が協調的にDNAの主溝に結合して塩基を認識するという特徴的なDNA結合様式をとっていることがNMRによる立体構造解析から明らかになった。Mybの動的な性質としては、^<15>Nラベルしたタンパク質を用いた^<15>N核のT1、T2、steady-state NOEの測定から、R2とR3は速い(ナノ秒以下の時間スケール)揺らぎを伴うフレキシブルなリンカーでつながっていて、R3のサブドメインは構造的に安定であるのに対して、R2は構造が不安定で遅く(マイクロからミリ秒の時間スケール)揺らいでいることが明らかになった。このR2の揺らぎを抑えた変異体(V103L)を作製して、DNAへの結合活性と結合に伴う構造変化を野生型と比較検討した結果、R2の構造的揺らぎがMybのDNA結合に伴う構造変化に重要な役割を果たしていることが示された。DNA結合に伴い、R2とR3をつないでいるリンカーはDNAの糖リン酸骨格との相互作用により固定され、またR2の構造的揺らぎも疎水性コアのパッキングが密になることにより減少した。このようにc-Mybの構造と機能との関連について、タンパク質の静的側面としての立体構造と動的側面としての構造のゆらぎの両面から解析した。
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