カルバインはカルシウムによって活性化される細胞内プロテアーゼであり、細胞機能調節における役割やいくつかの疾病の原因となることは、近年、数多く報告されているが、その基疾の認識機構についてはあまりよくわかっていない。カルパインは、システインプロテアーゼであるのでこれまでに活性中心のシステインと反応する多くの低分子阻害剤が開発されているが、それらのカルパイン特異性は低い。カルパインとの反応性の高いものには、疎水性のアミノ酸残基と塩基性のアミノ酸残基を含むものが多い。このことから、カルパインのプロテアーゼの活性中心の近くにはこれらのアミノ酸残基を受容する部位があると考えられる。しかしながらカルパインの基疾として報告されているタンパク質のカルパインによる切断部位には、かならずしも、このようなアミノ酸残基を含む配列はなく、活性中心の近傍以外にも基疾認識部位が存在することが予想される。 カルパスタチンのプロテアーゼ活性阻害部位や膜結合阻害部位のペプチドを合成した。カルパスタチンの阻害部位のペプチドとカルパインの相互作用と種々の陽イオンの影響とともに解析した。カルパインはカルシウムなど2価陽イオンを結合して疎水的な部位が露出する事を明らかにした。カルパスタチンペプチドの中にはこの変化を見かけ上阻害するものがあった。おそらく、このペプチドがカルパインの疎水的な面に結合するのであろう。解析を進めている。また、カルパインの基質となるアネキシンIの結晶構造を解析した。アネキシンIはカルシウムに依存してリン脂質に結合するタンパク質である。N末端から27番目でカルパインで切断され、リン脂質への結合に要するカルシウムの要求性が変化することが報告されている。また、この近傍のセリン残基のリン酸化によってもカルシウム要求性が変化する。天然型とリン酸化部位のセリンをアスパラギン酸に変異させたものの結晶を得、その回折データから立体構造を解析した。2つのタンパク質の結晶は異なる格子定数を持っており、結晶中でのpackingが大きく異なることが明らかになった。これは、N末端の構造の変化によるものと考えられた。2つの構造の精密化を行ったが、残念ながら、切断部位や、リン酸化部位の周辺の電子密度は低く構造の差を明確にはできなかった。現在、新たな結晶をからデータを得ることも含めて、さに精密化を勧める予定である。
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