細胞内のヘムは一般にP-450やヘム結合蛋白質などのような蛋白質結合ヘムとしてヘムプールを構成しており、フリーの形でのヘムはほとんど存在しないと言われている。ヘムの細胞内存在量は合成系と分解系の律速酵素遺伝子をヘム自身が制御する形で厳密に保たれている。しかしながらその意義はほとんど知られていない。仮説としては、熱ショックや紫外線、また重金属や有機化合物などの外的ストレスに細胞が晒された時、ヘムオキシゲナーゼの転写を増加させ、ヘムの分解物であるビリルビンの増大による還元力により、フリーラジカルを掃討するという考え方がある。だがこの仮説だけでは、ヘム自身によって厳密に細胞内存在量の制御を受けているヘムの意義は見えてこない。 私供は、各種ストレスによって転写制御されるヘムオキシゲナーゼの生理的意義を解明するために研究を進めてきた。すなわちストレス源として重金属のカドミウムを使い、ラットヘムオキシゲナーゼ遺伝子の転写制御を研究している。カドミウムを投与したラット肝から調製した核抽出液を使用した場合、ヘムオキシゲナーゼの基本転写調節部位であるUSF結合領域への転写因子の結合に変化が生じた。調べてみると、カドミウムにより転写因子USFに何らかの構造変化を引き起こしていることが示唆された。そこで今回はC6ラットグリオーマ細胞から調製したcDNAライブラリーからUSFに対するcDNAの単離を試みた。現在ほぼ90%の配列を得ることに成功している。今後は完全長の配列を得るとともに、USFを過剰発現させた細胞を用いカドミウムの影響を詳細に検討することにしている。
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