血圧制御系は、生体の恒常性を保つために、重要な役割を果たしている。その中でも、レニン・アンジオテンシン系は、この系の最終産物である生理活性ペプチドのアンジオテンシンII(AII)の産生を通して、血管収縮や水・電解質のバランスを制御し、血圧調節を行っていると考えられてきた。しかし、個体内におけるAII産生系の機能が、直接血圧調節に結びつくという証明はなされていなかったが、申請者の研究グループは発生工学的手法を用いて、レニン・アンジオテンシン系が正常血圧の制御に重要な位置を占めることを明らかにした。 以上の背景より、アンジオテンシン情報伝達系の血圧制御における重要な役割が、個体レベルで理解できた。しかし、多数存在するアンジオテンシン(1a型、1b型や2型)受容体間の情報伝達のクロストーク調節は、全く明らかになっていない。血圧調節機構を解明するためには、AT受容体のシグナル伝達を明らかにすることが重要である。そこで本研究は、アンジオテンシン情報伝達系の分子メカニズムを明らかにするために、以下の3点を行なうことを目的とした。 (1)Yeast Two-Hybrid法を用いて、AT1aとAT2に直接結合し、シグナル伝達に関わる未知の重要な分子をクローニングする:ヒト腎臓のcDNAライブラリーから、低分子量Gタンパク質と相同性のある興味深い候補遺伝子のクローニングに成功した。イ-スト内において結合活性を証明することができ、その結合に大切なアミノ酸残基を変異体を作製しながら同定中である。 (2)クローニングした分子と既知のシグナル伝達系との関わりを、細胞レベルで明らかにする:現在、クローニングした低分子量Gタンパク質とATlaとの結合活性の生物学的役割を解析中である。 (3)遺伝子欠損マウスを作製し、個体レベルでの機能を評価する:現在、ターゲットベクターを構築中であり、完了後ES細胞を樹立して欠損マウス作製にとりかかる予定である。
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