本研究ではGM-CSFをモデル系に細胞増殖の制御の解明を目的とした研究が行われた。これまで種々のβ鎖の変異体を作製してきたが増殖活性はないが細胞の生存維持の活性はあるユニークな変異体を見いだした。そこで平成9年度にはアポプトーシス制御に必要なGM-CSFのシグナル伝達経路を詳細に検討した。その結果、DNA断片化、カスペース活性化などを指標とした血球細胞のアポプトーシス制御にはチロシンキナーゼ阻害剤のゲニスチンに感受性の有るシグナル伝達経路とMAPキナーゼカスケードの経路のどちらかがあれば充分であることが明らかになった。また、二次元電気泳動用の設備を駆使して、GM-CSFレセプターに会合する分子を生化学的に単離精製することに成功し現在クローニングが進行中である。さらにはデイファレンシャルデスプレイ、サブトラクション法を用いてGM-CSFレセプターの特定の領域によって発現が誘導される遺伝子を複数単離した。トランスジェニックマウスについてはGM-CSFレセプターα、βサブユニットのキメラレセプターを発現したトランスジェニックマウスを作製したので解析を進めている。 本研究により興味深いレセプター変異体を得られたこと、これまで成功していなかったレセプター変異体のトランスジェニックマウスを得たことなどが大きな成果が得られた。しかし、クローニングワークに関しては進行が遅く、本来初年度に遺伝子を単離し、次年度以降にそのキャラクタリゼーションを行う予定であったが達成は見込めない。細胞増殖と分化は背反事象であると考えられ、現在まで主に細胞増殖がいかに起こるかという点を中心に増殖、分化の制御についてアプローチを進めている。増殖開始のシグナル伝達については今だ不明の点が多くこの研究姿勢は中心となり今後も進めていく予定である。しかし、より直接的に細胞分化にアプローチすることも必須である。GM-CSFは培養細胞レベルでは分化誘導活性は見いだされたことがなく、さらに我々のトランスジェニックマウスの結果はGM-CSFが分化誘導因子というよりは強い細胞増殖誘導因子であることを示唆している。そこでGM-CSFに代わる系の導入あるいは開発が必須であると考えられる。
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