トロンビンは血栓止血機序のkey enzymeとして、fibrinogen、第V、VIII、XIII因子等の凝固因子を活性化するとともに、血小板の最も重要な活性化因子である。トロンビンはトロンビンレセプター(TR)に結合後、TRを限定分解し、レセプター分子内のアゴニスト領域を露出させ、シグナルを伝達する。我々は、ゲル内リン酸化法を用いて、トロンビン刺激により新たに特異的に活性化される33kDaのカゼインをin vitroの基質とするリン酸化酵素(PK33)を発見し報告した。PK33はトロンビン濃度依存性に刺激後5秒以内に活性化される血小板セリン・スレオニンキナーゼであり、TRアゴニストペプチド(TRAP)の刺激でもトロンビン同様に活性化されたが、プロテアーゼ活性を阻害したDIPトロンビンやヒルジン処理トロンビンでは活性化されなかった。TRの細胞内シグナル伝達にはCa^<2+>の動員とG蛋白の共役、プロテインキナーゼC(PKC)の活性化が重要と考えられている。そこで、細胞内Ca^<2+>濃度とPK33の活性化の関連性を検討した。血小板をホルボールエステル(PMA)とカルシウムイオノフォアで刺激するとPK33の活性化がみられた。しかし、EGTAとBAPTA-AMにより細胞内外のCa^<2+>をキレート化した後に血小板をトロンビンで刺激すると、PK33の活性化は起こらなかった。血小板をカルモジュリン阻害剤で前処置した場合には、PK33の活性化は阻害された。以上の結果から、PK33は血小板活性化において、TR、カルシウム・カルモジュリン、PKCを介するシグナルを伝達する重要なキナーゼであることが示唆された。TRを介する血小板活性化機構においては、ミオシン軽鎖リン酸化酵素、PKC、MAPキナーゼなどが、また、カゼインをin vitroの基質とするセリン・スレオニンキナーゼにはカゼインキナーゼI、カゼインキナーゼII、Aキナーゼ、cdc2キナーゼ等が報告されている。しかし、それらの分子量、基質特異性、阻害剤に対する反応性などを考慮すると、PK33はこれらの既知のリン酸化酵素とは明確に異なる新しいリン酸化酵素であると推定される。
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