トロンビンは吐血血栓機序の主要なプロテアーゼとして、フィブリノゲン、第V、VIII因子等の血液凝固因子を活性化するとともに、血小板の最も重要な活性化因子である。トロンビンは、血小板トロンビンレセプター(TR)内のヒルジン様構造部位に結合した後にTRを限定分解し、TR分子内に隠されていたアゴニスト領域を露出させ、この領域を介して細胞内にシグナルを伝達する。TRは7回膜貫通構造をもつG蛋白共役型受容体の一つで、細胞内シグナル伝達にはCa_<2+>の動員とG蛋白の共役が関与すると考えられている。TRのC末側の細胞内ドメインは細胞内にシグナルを伝達するためには必須の領域であり、このドメインのリン酸化によりG蛋白の結合が阻害され、トロンビンに対する不応化が起こると考えられている。 我々は、血小板におけるTRのC末側の細胞内ドメインをリン酸化する酸素を調べるために、TRの細胞内ドメインをPCR法により増幅し、大腸菌にGSTとの融合蛋白として発現させた。この融合蛋白をゲル内リン酸化法のin vitroの基質として用いたところ、血小板内にトロンビン刺激により新たに特異的に活性化される33kDaリン酸化酸素が検出された。この33kDaリン酸化酸素はトロンビン濃度依存性に刺激後5秒以内に活性化されるセリン・スレオニンキナーゼであり、トロンビンレセプターアゴニストペプチド(TRAP)の刺激でもトロンビン同様に活性化されたが、プロテアーゼ活性を阻害したDIPトロンビンやヒルジン処理トロンビンでは活性化されなかった。以上の知見から、この33kDaリン酸化酸素は、血小板のトロンビンレセプターを介するシグナル伝達系の一役を担うことが示唆された。しかし、このリン酸化酸素がトロンビンに対する不応化に関与するかは現在のところ明らかでない。
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