Achromobacter protease I(API)はリジル結合を特異的に切断するセリンプロテアーゼで、高い触媒活性、アルカリでの広い至適域、変性剤に対する安定性、など優れた性質を有する。本研究では、部位特異的変異による高触媒活性の分子基盤を解析した。 APIと他のセリンプロテアーゼの立体構造比較から、触媒部位近傍に存在するHis210とTrp169がAPIの高触媒活性に深く関与していると予測されたために、Trp169をGly、Ala、Val、Phe、Tyr、His、Leuに、His210をLys、Ser、Alaにそれぞれ置換した変異体を作成し、その酵素活性を検討した。Trp169の側鎖を小さくするにつれて、kcatが減少、Kmが増加し、酵素活性(kcat/Km)が低下した。この時、169位のアミノ酸側鎖の表面積と酵素活性の間には直線的な相関性があり、Trp169の側鎖によるHis210側鎖の溶媒からの隔離がAPIの高触媒活性に関与していることが示唆された。さらに、169位の側鎖の大きさが、至適pH域をアルカリ性へシフトさせていることも明らかになった。この効果は、169位のアミノ酸側鎖によりHis210が外部から遮へいされ、疎水的環境に置かれることで説明される。His210は触媒部位(Asp113-His57-Ser194)のAsp113と相互作用しており、His210の鎖側が正電荷を有する時には、触媒部位としての機能が著しく低下する。いま、His210周辺の疎水性が増加すると、His210のpKaがアルカリ性にシフトし、Asp113との相互作用を通して、APIの至適pH域をアルカリ性にシフトさせていると考えられる。現在、変異体のX線結晶解析が進行中で、変異体の立体構造が解明されれば、さらに詳細に検討できると期待される。
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