本研究の目的は、ビオチン化NADを用いて、細胞表面にアルギニン特異的ADP-リボシル転移酵素とその標的タンパク質をもつマウスリンパ球サブセット及び転移酵素と標的タンパク質の同定を行うことである。 ビオチンのサクシイミド誘導体とNADのアミノヘキシル誘導体を反応させ、反応生成物をHPLCで分離し、NADに由来する254nmの波長における吸収とビオチンの競合アッセイ法によってビオチン化NAD画分を同定した。この画分をニワトリADP-リボシル転移酵素の基質とした場合、アルギニンヘビオチンを含む部分が転移され得ることを明らかにした。 ビオチン化NADをマウスリンパ球の培養液に添加したのち細胞を洗浄してFITC標識アビジンで染色すると細胞が蛍光標識されるが、ADP-リボシルアルギニン水解酵素の処理によっても蛍光標識が低下しないことから蛍光標識は必ずしもアルギニン特異的ADP-リボシル化反応のみによるものではないことが明らかになった。その一方でマウスリンパ球のADP-リボシル転移酵素の組換え体タンパク質を用いた実験ではビオチン化NADがこの酵素の基質となることを確認した。これらより、マウスリンパ球上のADP-リボシル転移酵素がビオチン化NADを用いて細胞表面でADP-リボシル化反応を行っていたとしても検出できないほど高いバックグラウンドが存在することが明らかになった。そこでバックグラウンドを低下させるために反応液や洗浄液にADP-リボースやアルブミンなど種々の物質を加える試みを行ったが、現在のところ著明な改善には至っていない。 サブセット同定のためには、細胞を固定することにより洗浄条件を厳しくして多重染色すること、標的タンパク質の同定のためには標識した細胞からビオチン化ADP-リボースと共有的に結合したタンパク質をSDS-PAGEで検出するなどの方法を試みている。
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