本研究は、肝実質細胞の最終分化段階において特異的に発現する。セリン脱水酵素遺伝子の発現は、ラット胎生期肝臓においては、核タンパク質すなわち転写因子によって抑制されている、というこれまでの研究成果に基づき、この転写因子のcDNAクローニングを行い、既知の因子との異同を明確にし、肝実質細胞の最終分化とつながりを知ることを目的として行われた。 この核タンパク質は、GATA配列を認識し結合することから、GATA転写因子ファミリーに属する可能性が高いと考えられた。そこで、GATA転写因子ファミリー間で保存されている部分配列をプローブとして、ラット胎生期肝臓cDNAライブラリーをスクリーニングし、cDNAクローンを得た。その塩基配列がマウスGATA-1と98%以上同じであることから、このクローンはラットGATA-1であると同定した。胎生期肝臓は血球系細胞を多く含むが、ノーザンブロット解析は、単離した肝実質細胞がGATA-1を発現していることを示した。次に、クローニングしたラットGATA-1を大腸菌に発現させ、そのDNA結合特性を調べたところ、胎生期肝臓の核タンパク質のそれとほぼ一致していた。肝実質細胞にGATA-1以外にそのファミリーに属する因子も発現していることを否定できないので、GATA転写因子ファミリーの中で、血球系細胞以外の細胞に存在するGATA-4に注目し、その発現をノーザンブロット解析で調べた。GATA-4mRNAは心臓、小腸より量的に少ないが、肝臓にも検出され、その発現は成熟ラット肝臓よりも胎生期肝臓の方が高いこと、また、肝実質細胞において発現が認められることが判明した。今後、GATA-1とGATA-4が肝実質細胞の分化にどのように関わっているのかを明らかにすべく研究を進めている。
|