近年、Fragile X症候群、ハンチントン病などの遺伝性疾患及び癌にゲノムの不安定性が大きく関与していることが明らかになってきた。しかし、不安定性そのものを規定する遺伝的要因に関しては未だほとんど明らかにされていない。我々は、これら不安定性を示す領域が全てリピート領域であることに注目し、積極的にリピートの安定性に関与する遺伝的要因を明らかにすることを試みた。まず、リピート領域を含む酵母人工染色体(YAC)を用いて、不安定性を抑制する酵母菌宿主変異株の単離に成功した。つぎに、リピートの安定性に関与する酵母遺伝子の単離を試みた。新しい変異株は親株に比べ増殖速度が遅いという性質を利用して発現クローニングを行い、候補遺伝子を15クローン単離した。各クローンを変異株に再導入し、コロニーカラーアッセイおよびサザンブロット法により、再度不安定性を獲得するか否かを検討した結果、2クローンについて再現性が得られた。塩基配列の決定とデータベース検索により、1クローンはAストレッチシークエンスを含む機能未知領域、1クローンはトポイソメラーゼIIのコード領域を含むことが明らかとなった。トポイソメラーゼIIはトランスに、また、Aストレッチシークエンスはトランス因子の競合結合によりシス領域に作用することによって、リピートの不安定性に関与しうることが示唆された。今後、変異株におけるトポイソメラーゼII変異部位の同定と、未知遺伝子のヒトホモログ単離を行い精神疾病、癌、またその他の遺伝疾病で、不安定化遺伝子の発現変化及び変異と疾病との関連性について検討することが必要と考えられた。
|