大腸菌RNAポリメラーゼの主要σ因子であるσ^<70>のうち、プロモーターの-35配列の認識に関わるC末端領域(領域4.1および4.2)を欠失した変異体σ^<70>-529は、lacUV5などの通常のプロモーターを認識できない。欠失した部分に相当する85アミノ酸残基のペプチドを調製し、σ^<70>-529と共にin vitro転写系に添加したところ、σ^<70>-529単独では認識できないlacUV5、Pconsなどのプロモーターを強く認識できることがわかった。C末端ペプチド単独ではコア酵素に結合できないことから、σ^<70>-529とC末端ペプチドとの間のドメイン間相互作用がσの機能に重要な役割を果たすことが示唆された。ドメイン間相互作用に関わる領域を同定する目的でC末端領域に系統的にアミノ酸変異を導入したところ、σ間で保存されている領域4.1内の疎水性アミノ酸残基をセリン、アラニン等に置換することによりσの機能が著しく損なわれることがわかった。 σ^<70>と鋳型DNAもしくはRNAポリメラーゼの他のサブユニットとの相互作用を明らかにする目的で、化学切断試薬であるFe-BABEをσ^<70>上の様々な位置に導入した。この目的のため、σ^<70>が持つ3個のシステインをすべてセリンに置換したうえで、σ^<70>上の様々な位置を1個のみシステインに置換し、これをアンカーとしてFe-BABEを導入した。これを用いてRNAポリメラーゼホロ酵素および転写開始複合体を再構築し、ペプチド鎖およびDNA鎖の切断を行なった。その結果、従来から予想されているプロモーターの-10領域、-35領域に加えて、転写開始点付近および-10と-35の間のスペーサー領域が、σ^<70>の特定の領域と接触していることがわかった。また、2つの巨大なサブユニットβとβ'上でσ^<70>と接触している領域を同定した。今後は同様の方法を用いてσ^<70>のドメイン間の相互作用を明らかにするほか、これらの相互作用が転写の各段階でどように変化するかを追跡する予定である。
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