研究概要 |
蛋白質の立体構造安定性に対する,蛋白分子表面解離基間の静電相互作用の寄与を評価するために,計算と実験の両面から研究を進めてきた。具体的には,以下の通りである: (1)計算科学的研究:(1)分子表面のイオン電荷を相互に入れ換えてできる,全ての“静電変異体"の集団を計算機内に生成させ,各分子の静電エネルギーをポアソン・ボルツマン方程式を数値的に解いて評価する,「イオン電荷シャッフル法」を開発した。これを5種の蛋白質に適用した結果,変異体集団と比べて天然蛋白質では,分子進化の結果として,正負電荷の空間配置が,静電エネルギーが低くなるように設計されていることが分かった。(2)マグロのシトクロムcの分子表面にあるリシン残基について,そのイオン電荷を部分的に中和してできる全ての分子種の静電エネルギーを,デバイ・ヒュッケルの遮蔽定数を変えて数値的に評価した。その結果,解離基の正負電荷数を変えることにより,構造安定性に対する静電相互作用の寄与を,天然蛋白質よりも大きくできる可能性があることを明らかにした。 (2)実験的研究:上記(2)を検証するために,ウマのシトクロムcの分子表面にある19個のリシン残基を,アセチル基で部分的に中和した試料を調製し,中和度の異なる集団に分画した。そして各集団の構造安定性の,pH,温度,塩濃度,アルコール・変性剤濃度による変化を,円偏光2色性(CD)スペクトル,高感度示差走査熱測定(DSC)を用いて調べた。分光学的測定からは,静電相互作用と共に,解離基の中性化による逆疎水効果の構造安定性への寄与が新たに見出された。またDSC測定から,立体構造の熱転移を含む熱容量の精密データが集積され,それらの解析法の開発を現在進めている。
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