研究概要 |
本年度は抑制性アセチルコリン(ACh)受容体のACh認識機構を調べるため、一般に興奮性のニコチン性受容体のACh認識部位近傍(Tyr^<190>に結合することで知られるサンゴ毒Lophotoxinのanalogを用いて応答性の変化を調べた。Bipinnatin A,B,Cは、Lophotoxinと一部構造が異なり、ACh認識部位との結合様式、およびその作用機構が明確になっている。実験では、単シナプス伝達のみを許す溶液条件で、介在ニューロンMA1により閉口筋に誘発されるIJPを吸引電極を用いて細胞外で記録し、この応答(IJCs)への3種類のBipinnatinの効果を調べた。Bipinnatinは2時間のpreincubation後、作用させた。Bipinnatin効果の発現には長時間を要し、作用させないcontrol条件下でも時間と共にIJCsの緩やかな減少が見られた。そこでBipinnatin効果は常にcontrol時間曲線との比較により行った。BipinnatinBの添加後、IJCsはcontrolに比べ急激に減少し、約3時間後には最大controlの50%まで減少した。一方Bipinnatin A,Cでは、添加後IJCsは増大し、約1-2時間後にピーク値をとった。この増大の傾向は、Bipinnatinn Cの方がBipinnatin Aに比べてはるかに大きく、IJCsが最大controlの4倍に増大するものもあった。 一般に、興奮性のニコチン性受容体は、3種類すべてのBipinnatinでその応答が抑制されることが報告されている。そこで、今回の結果は、抑制性のニコチン性ACh受容体では、ACh認識部位近傍の構造が興奮性のものとは異なることを示唆する。またBipinnatin A,Cによる増大はたいへん興味深く、今後のパッチクランプ法を用いた実験でより詳しく調べる予定である。
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