(1)標識グルコースを原料とする糖部標識ヌクレオシド類の合成ルートの確立:標識グルコースを原料として糖部標識ウリジンやチミジンを合成するルートは収率がよいが、プリンヌクレオシド類の化学合成収率は満足のいくものではない。糖部標識ウリジンやチミジンを出発物質として酵素を用いる塩基交換反応を利用して糖部標識プリンヌクレオシドを調製する手法に関して検討した。ウリジンあるいはチミジンから換算して概ね90%以上の収率でアデノシン、グアノシン、2'-デオキシアデノシン、2'-デオキシグアノシンを得ることができた。 (2)高分子量複合体の構造解析への応用:安定同位体利用NMR研究の最終目的は従来の手法では解析が困難であった高分子量複合体の構造解析にある。測定対象が高分子化するに従い、シグナルがブロードになり、かつその重複が著しくなる。化学合成法の長所の一つである残基特異的標識法を最大限に活用することにより任意の残基を標識したサンプルを種々調製し、個々の解析データを集積することにより全体構造を決定する。この手法により、シグナルの重複を防ぎ、また煩雑なシグナル帰属の操作を回避することにより、迅速でより精度の高い解析が可能となる。対称として、Antennapedia Homeodomainとその認識配列を含むDNAオリゴマーとの複合体を用いて、高分子量蛋白質-DNA複合体の糖ーリン酸バックボーンの構造解析を行い、全てのホスホジエステル結合部位に配座がBI配座でるかBII配座であるかを決定することに成功した。また、蛋白質の結合によるDNA糖部の配座の変化を観測することに成功した。現在、構造解析研究が進行中であり、近い将来、精密構造を報告できると期待している。
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