本研究では、脊椎動物の祖先形であるホヤ幼生を用いて、その脳神経系の構築過程を明らかにするために、ホヤ幼生の脳神経系のマーカーとなる蛋白質または遺伝子を得ることを目的とした。G蛋白質は種々の細胞の情報伝達に関与していることが明らかにされており、その中でもGoクラスのG蛋白質は脊椎動物では脳神経系に特異的に発現していることがわかっている。本研究に置いても、まず、ホヤのGo蛋白質遺伝子をクローニングすることを試みた。 まず脊椎動物G蛋白質で保存されているアミノ酸配列を元にプローブを作製し、ホヤ幼生のcDNAライブラリーをテンペレートにしてPCRを行った。その結果Goクラスに相同性を示すcDNA断片が得られたので、それを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果、10万クローンのスクリーニングから1個のポジティブクローンを得ることが出来、これをもとに更にライブラリーをスクリーニングすることにより、その全長配列を決定した。このG蛋白質は全長配列ではラットGo、Giと同程度の相同性を示した。しかし、C末端アミノ酸配列を見るとGo、Gi_αに特徴的な百日咳毒素の基質となるシステイン残基が認められないこと、Go_αで保存されているアミノ酸が保存されていないことなどから、ゆるい条件ではGiクラスに含まれるが、新規なサブクラスをつくるG_αであると結論された。 ノーザンブロット解析の結果、このG_α遺伝子は未受精卵では発現が認められないが、胚の64細胞期で発現が認められ、発生が進むとともに発現量が増えることがわかった。また、このG_α遺伝子をプローブとしてin situ hybridizationを行い、このG_α遺伝子が尾芽胚期では頭部神経系の限定された細胞に発現していることがわかった。 今後この新規G蛋白質遺伝子はホヤ幼生の脳神経系のマーカーとして役立つものと期待される。
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