細胞は運動するときに仮足と呼ばれる構造を進行方向に突き出す。この仮足内部にはアクチンフィラメントからなるゲルがつまっており支持体の役割を果たしている。仮足伸展の機構として、原形質内にあるアクチンモノマーが重合してゲルとなること(ゾル-ゲル変換)によって原形質膜が押し出される、というものが考えられており、それに沿った状況証拠が種々提出されている。にもかかわらず、その分子機構にはなお不明の点が多い。その理由の一つとして仮足それ自身の力学的性質に不明な点が多いことが挙げられる。そこで本研究では運動中の仮足部分の力学的性質をエバネッセント光をイメージング用光源とし、かつ光ピンセットを細胞顕微操作の道具として組み込んだ新しいタイプの顕微鏡を用いて解明することを目指した。 光ピンセットの基礎技術は細胞運動に関わるアクチン・αアクチニン間の結合力と寿命測定の成功により確立した。一方イメージング用光源としてのエバネッセント光の利用は、蛍光ラベルしたアクチン・モノマーの重合過程の観察に成功したことにより確立した。 本研究に用いる光ピンセット装置は製作段階にある。光学顕微鏡が本来持つ落射蛍光、位相差等のイメージング機能と光ピンセット操作機能とを両立させるため、顕微鏡のイメージング系再設計および光ピンセットの光学系のパラメータ決定など、長期にわたる準備作業が必要であった。実験に用いる細胞はCHOと呼ばれる種類のもので、大きさ約30μmである。ガラス上を動き回るとき厚さ約0.5μmの仮足を伸展する。この伸展に伴う「押し出す力」を測定する予定である。更にアクチンフィラメント形成を阻害するサイトカラシンという薬物を投与したときその力がどう変わるかを調べるための準備を進めつつある。
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