チトクロム酸化酵素(CCO)は、好気的生物のエネルギー変換系にあって直接分子状酸素と反応し、これを4電子還元して2分子の水を生成するとともに、プロトンポンプとして働いている。プロトンはチロシン残基やカルボキシル残基などの解離性アミノ酸残基によりタンパク中を運ばれていくと考えられるが、その実体は不明である。本研究では紫外共鳴ラマン分光法により、チロシン残基に注目してその構造変化を選択的に検出した。平成8年度に紫外専用のラマン分光光度計組み立てた。これをCCOに適用したところ244nm励起ではチロシン(Y)残基とトリプトファン(W)残基に由来する共鳴ラマンスペクトルが選択的に得られた。このほかに1656波数にラマン線を見いだしたが現時点でその帰属は不明である。 平成9年度は種々のリガンド結合型、部分還元型酵素の測定を行い、休止型(RES)や完全還元型酵素(RED)のスペクトルと比較した。REDにCOあるいはCNを結合させたもののスペクトルはREDのものに近かった。またRESにCNを結合させたものとRESのオスペクトルも近かった。これらのことは活性部位へのリガンドの結合はタンパク構造に余り大きな変化を引き起こさないことを示す。一方、RESとREDを比べるとYやWに由来するラマン線に変化があった。a部位とa_3部位のどちらの酸化数の違いがタンパクにより大きな変化を与えるか調べるためa部位が還元型、a_3部位が酸化型の部分還元型を調製した。その結果からa部位の酸化数の違いがYやWのラマン線により大きな変化を与えることが明らかになった。 本研究により時間分解スペクトルを解析するための基本データが整った。
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