研究概要 |
申請者はこれまでin vitroで作成したtRNA転写産物を用いて、大腸菌tRNA^<Ser>,tRNA^<Leu>,tRNA^<Tyr>それぞれの認識にとって必要な塩基を調べている過程でtRNA^<Tyr>からtRNA^<Ser>への変換、tRNA^<Leu>からtRNA^<Ser>への変換、tRNA^<Ser>からtRNA^<Leu>への変換、tRNA^<Tyr>からtRNA^<Leu>への変換がいずれも構造変化を引き起こすような変異を導入するだけで可能となることを発見している。本研究では、真核性物である酵母のtRNA^<Leu>の認識機構およびtRNA^<Ser>に対する識別機構を明らかにすることができた。ロイシル-tRNA合成酵素はdiscriminator塩基であるA73の他、アンチコドン2文字目のA35、アンチコドンの3'側に隣接する塩基であるG37を認識していることが明らかになった。アンチコドン認識の有無に関して原核生物と真核生物との間で違いが見られたのは本研究のtRNA^<Leu>の例が初めてである。また、酵母では他種のclass II tRNA(tRNA^<Ser>)を識別するにあたって立体構造の違いを全く必要としていなかった。以上のように原核生物と真核生物とでは、他種のclass II tRNAを識別する戦略が根本的に異なっていることが明らかになった。このことはclass II tRNAが3種類の原核生物と2種類の真核生物の差、すなわち、排除すべき類似tRNA分子の数の差を反映しているものと思われる。現在、第3の生物界とも言うべき古細菌(好塩菌)からロイシル-tRNA合成酵素を精製しているところである。古細菌は2種類のclass II tRNAを持つ点では真核生物に似ているということができるが、tRNA^<Leu>の構造はどちらかというと原核生物のものに似ており、認識識別戦略の様式を明らかにすることで、class II tRNAの起源、立体構造を中心とした認識識別戦略の起源などにせまることができるものと考えている。
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