マメ科植物の根粒内では、遺伝子発現、倍数性、代謝、形態などの点で区別される感染細胞と非感染細胞とが混在している。本研究では、植物の遺伝子発現における組織及び細胞特異性とクロマチン構造の動的変化との関係について理解を深めることを目的とし、感染細胞特異的に発現するレグヘモグロビン(Lb)遺伝子座におけるクロマチン構造の変化を、根粒内の感染細胞と非感染細胞、Lbが発現していない組織由来の細胞、及び、未分化の培養細胞の間で比較する。 本年度は材料の調整法及び実験系の確立に努めつつ研究を進め、以下のことを明らかにした。 1.ダイズのゲノムライブラリーからLb遺伝子座の一部を持つλクローンを多数単離し、詳細な物理地図を作成した。その結果、単離したクローンによって2ヶ所のLb遺伝子座が完全にカバーされていることが明かとなった。 2.ダイズ培養細胞及び根粒からの核の単離法を確立した。 3.λクローンからサブクローン化したLb遺伝子座由来のDNA断片をRI標識し、コムギ培養細胞由来の核マトリックスとの結合実験により、Lb遺伝子座におけるMAR(matrix attachment region)を同定した。その結果、Lb遺伝子座ほぼ全領域が核マトリックスと結合可能であることが示唆された。 4.MARには一本鎖に解離しやすい領域(BUR)が含まれていることが報告されている。そこで、クロロアセトアルデヒド処理によってLb遺伝子座におけるBURの分布を解析したところ、Lb遺伝子座ほぼ全領域にわたってBURが見出された。この結果は、Lb遺伝子座全領域がMAR活性を持つことと矛盾しない。 上記3.および4.で得られた結果は一般に知られているMARと遺伝子の関係(MARの分布)とは異なるものである。このことがLb遺伝子特有なあるいは植物に特有な遺伝子発現制御機構と関連があるのかどうかを明らかにすることは今後の重要な課題である。
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