主要なステロイドホルモン産生組織である生殖腺と副腎皮質は、共に同一の細胞集団より派生することが、Ad4BP抗体による免疫組織染色の結果より示された。すなわち、Ad4BP陽性として認められる一つの細胞集団は、後に二つに分離し生殖腺原基と副腎原基を形成する。各々の原基は更に生殖腺と副腎皮質へと分化することになる。この過程で特徴的なことは、生殖腺が性依存的に精巣と卵巣に分化するのに対し、副腎皮質ではそのような性分化は認められないことである。本研究においてはこれらの組織の分化に不可欠な転写因子の機能と発現を基に、性的に未分化な生殖腺が精巣および卵巣へと分化する過程を検討することで、性依存的分化のメカニズムを明かにする。 Ad4BPとDAX-1と呼ばれる転写因子を中心に研究をおこなった。これらは生殖腺や副腎皮質などのステロイドホルモン産生細胞に発現するが、Ad4BPが全ての体細胞に発現するのに対し、DAX-1はその一部の細胞に発現するなど、その分布に顕著な差が認められた。また11.5日齢の胎仔泌尿生殖隆起における発現も、全てのAd4BP陽性細胞がDAX-1陽性とはならず、その分布に差が認められた。一方、DAX-1の機能を調べたところ、Ad4BPで活性化するP450遺伝子の転写を抑制した。またDax-1遺伝子自身はAd4BPの制御下に転写が活性化されることを見い出した。 DAX-1は性腺や副腎特異的に発現する遺伝子の転写に対し抑制的に働くと推測される。またDax-1遺伝子がAd4BPの制御下にありながら、両者の分布が異なるという結果からはAd4BPはDax-1の転写制御に不可欠であるが、他の因子の関与も必要であることを示唆している。一方で、P450遺伝子はAd4BPによって正に制御されており、DAX-1による負の制御を考慮する必要がある。
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