本研究は、ヒト・グロビン遺伝子の発現スイッチング機構を遺伝子構造から捉え解明する目的で、β-グロビン遺伝子全座にわたり特異的DNA構造(bent DNA構造及び三重鎖DNA構造)を同定し、それらの特異的構造が発生段階特異的遺伝子発現にどのような関連性を持つのかシス及びトランス両面の制御をふまえて検討する事を主眼としている。本年度行った研究を概要すると、我々が従来発表してきた680bpの周期をもってゲノム上に存在する周期性bent DNAが染色体構築上如何なる意義を持つのかを検討する目的で、第一点として、ヌクレオソーム位相とbent DNA部位との関連を調べた。その結果、ヌクレオソーム位相にはDNAの折れ曲がりを示す20bpA+T-rich配列が関与しておりこの配列のみでヌクレオソーム位相を行う事が確認され、またコア・ヒストンに対する親和性が高い事より、コア・ヒストンに本配列が結合する事でヌクレオソーム形成が開始され、その結果ヌクレオソーム位相が生じると推測された。第二点として、遺伝子発現制御領域における周期性bent DNA部位の検討を行った。グロビン遺伝子のスイッチングにはε-グロビン遺伝子上流6kb-20kbに存在するLCR(Locus Control Region)が必須である事が知られているが、このLCRは少なくとも4つのDNase Hypersensitive Site(HS)により構成され、その領域のクロマチン構造がオープンになる事により各々の遺伝子発現の制御が行われる。この領域における周期性bent DNA構造を調べたところ、HS1-HS4ともに平均680bpの周期に乱れのある部位あるいはその近傍に存在していた。また、HS2領域におけるヌクレオソームの位相を調べたところDNAのbent部位がヌクレオソームの位相にとって重要である事が解った。従って、周期性bent DNA構造がスイッチングを制御するLCRにおけるクロマチン構造を想定する要因の一つであると考えられた。
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