本研究は、ヒト・グロビン遺伝子の発現スイッチング機構を遺伝子構造から捉え解明する目的で、β-グロビン遺伝子全座にわたり特異的DNA構造(bent DNA構造及び三重鎖DNA構造)を同定し、それらの特異的構造が発生段階特異的遺伝子発現にどのような関連性を持つのかシス及びトランス両面の制御をふまえて検討する事を主眼としている。本年度行った研究を概要すると、全長約65kbにわたるβ-郡座全領域のDNA折れ曲がり部位のマップを完成しえた。マッピングの結果、合計97箇所の折れ曲がり部位が同定され、平均678bpの周期性を持って存在していた。この周期性は、転写制御に重要なLCR(Locus Control Region)のDNase I hypersensitive siteや重複遺伝子の連結部位など、発現上あるいは進化上重要かつ興味ある領域で周期性が乱れている事から、折れ曲がり部位の周期性は様々な環境下でのクロマチン構造を規定する一因子として働いていることが示唆された。さらに、周期性bent DNA構造という観点からβ-グロビン遺伝子座のDNA複製開始領域(ori)のクロマチン構造、特にヌクレオソーム構造について解析をおこなった。その結果、折れ曲がり部位の周期性はこの領域で乱れており、ori部位はちようど2つの折れ曲がり部位の中間に位置しori部位と重ならないようにずれている事が解った。また、ヌクレオソーム位相は、折れ曲がり部位にコア部分が、S1ヌクレアーゼ感受性を示すマイクロサテライト配列にリンカー部分が位置しており、ori配列と考えられているA+Tリッチ配列はコア部分に相当していた。これは、LCR領域のエンハンサー部位と類似の位置関係であり、DNA複製開始領域においても周期性bentDNAが特異的なクロマチン構造を規定しているものと考えられた。
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