本研究は、ヒト・グロビン遺伝子の発現スイッチング機構を遺伝子構造から捉え解明する目的で、β-グロビン遺伝子全座にわたり特異的DNA構造(bent DNA構造及び三重鎖DNA構造)を同定し、それらの特異的構造が発生段階特異的遺伝子発現にどのような関連性を持つのかシス及びトランス両面の制御をふまえて検討する事を主眼としている。本年度は、折れ曲がりDNA構造の生物学的意義を考察する事を目的として研究を行った。1)66kbにわたるβ-グロビン遺伝子座をサーキュラー・パーミューテション法にて折れ曲がり部位を同定したところ、平均679.2±229.6bpの間隔を持って98部位が同定された。2)折れ曲がり部位間の間隔分布を調べたところ、650-700bp間隔に分布のピークがみられマイナー・ピークを含め170bpを基本単位とするマルチマーであることが解った。この基本単位はリンカーを含めたモノ・ヌクレオソーム長に相当すると考えられた。3)偽遺伝子を含め総ての遺伝子において、転写開始点からの折れ曲がり部位の相対的位置は進化を通して保存されていた。4)51折れ曲がり部位に我々が提唱した中心配列(A/A/A)が75箇所存在し、そのうち64箇所の配列はオリゴヌクレオチド・アッセイにて明らかな折れ曲がりプロフィールを示した。5)AA及びTT配列分布に基づくコンピュータ解析によって予想される折れ曲がり部位及びヌクレオソーム位相と、実験にて同定された結果がよく一致していた。以上の結果から、折れ曲がり部位の生物学的意義として、ゲノムDNA上に存在する基本的かつ普遍的ゲノム構築因子ではないかと考えられた。
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