アブラムシ細胞内共生体が合成するストレス・タンパク質シンビオニンはヒスチジンタンパク質キナーゼ活性を有することから、共生体におけるエネルギー転換系の中心的役割を担うとともに、細胞内情報伝達機構に関与すると考えられる。本研究では、シンビオニンが二成分型機構における"センサー分子"として機能する可能性を立証するための解析を行い以下の成果を得た。 1.新たに開発した制御分子検出法により、共生体にはシンビオニンから高エネルギーリン酸基を受容するタンパク質(制御分子)が8種類存在することを見出した。また、これらすべてのタンパク質を電気泳動的に分離・精製し、その部分アミノ酸配列分析を行い、既知タンパク質との相同性を検索した結果、4種類の制御分子(DnaK、SymL、OmpF、HistoneH1)を同定した。 2.免疫染色法および免疫沈降法により、42-kDa制御分子は大腸菌の外膜構成タンパク質(ポリン)OmpFと免疫化学的特性を共有することを見出した。 3.電子顕微鏡を用いた免疫組織化学法によりセンサー分子および制御分子の共生体内局在性を調べた結果、シンビオニンは細胞質に、OmpF相同分子は主として外膜画分に(一部は細胞質)に局在することを明らかにした。 4.大腸菌の外膜単離法に準じて、共生体から外膜を単離する方法を確立した。さらに、シンビオニンと共生体外膜からなるリン酸基転移解析系を再構築し、そのキネティックスを詳細に解析した。 5.本研究により得られた結果に基づき、アブラムシ細胞内共生系における情報伝達機構のモデルを提唱した。
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