オンコスタチンM(OSM)は、黒色腫細胞に対しては増殖抑制に作用し、カポジ肉腫細胞には増殖を促進する。この細胞種特異的なシグナル伝達の違いは、ヒトOSMを用いた研究で明らかになったが、その生理的役割を理解するには正常細胞や個体でのOSMの生物活性を知る必要があった。本研究では、本研究者らが近年クローニングしたマウスOSMを使って以下の事実を明らかにし、新規実験系を樹立した。1)マウスOSM(mOSM)はヒトの場合と異なり、LIF受容体を活性化せず、OSM特異的受容体を〓してシグナルを伝達する。2)マウスOSM受容体ベータ鎖(mOSMRβ)をコードするcDNAをクローニングし、mOSMはgp130とmOSMRβにそれぞれ低親和性で結合し、両者が共発現すると高親和性で結合しシグナルを伝達する。さらにこの受容体はヒトOSMやマウスLIFでは活性化されない。3)mOSMは胎生中期の生殖隆起や、新生マウス精巣セルトリ細胞に発現し、それぞれ対応する組織の初代培養系で細胞増殖を促進する。4)胎仔培養系から新規にOSM依存性に増殖する血管内皮様細胞株LOを樹立した。5)増殖抑制に働くNIH3T3細胞株と増殖応答性のLO細胞株とを比較したところ、OSMRβの発現とOSM刺激後のJAK2/STAT3活性化や初期応答遺伝子OIG31、Myd118の発現は、両細胞株ともに観察されたが、adherens junctionの消失や裏打ち蛋白質群の細胞質分布増大はLO細胞にのみ観察された。これらの結果は、OSMによる細胞増殖促進・抑制シグナルの切り換えは受容体レベルではなく、細胞種特異的な細胞内分子の発現の違いに起因することを示唆する。裏打ち蛋白質群が細胞増殖を直接引き起こすのかどうか、増殖抑制にも特異的分子の発現が必要であるか、本研究で得られた実験系と遺伝子を活用してさらなる解析が進むと期待できる。
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