1)細胞性粘菌のミオシンは他の多くの非筋細胞と同様、重鎖および調節軽鎖がリン酸化を受ける。ミオシン重鎖のリン酸化はC末に近い3つのスレオニン残基で起こる。また、軽鎖のリン酸化は1つのセリン残基で起こる。これらのリン酸化が起こらない次の3種の変異体を用いた。 (1)重鎖のリン酸化されるスレオニン残基をすべてセリン残基に置換した遺伝子をミオシン重鎖欠損変異体に導入したもの。この改変ミオシンでは重鎖のリン酸化は起こらない。(2)重鎖の調節軽鎖結合ドメインを欠いた遺伝子を導入したもの。この改変ミオシンでは、調節軽鎖を持たず軽鎖リン酸化による調節を受けない。(3)さらに、両者を欠損させた重鎖、軽鎖ともリン酸化がまったく起こらない変異体を作成した。 2)細胞性粘菌のミオシンの頭部のATPase活性に関与する部位の一部を欠損させた遺伝子をミオシン欠損変異体に導入した。この変異細胞は、ミオシン欠損変異体と同じように細胞分裂ができなかった。 3)これらの変異体の細胞を微分干渉顕微鏡を用いて、ビデオカメラで取得後、コンピューターによる画像解析により、各リン酸化欠損に伴う細胞の行動や細胞内顆粒の動きの異常を解析した。また、細胞内のミオシン分子の挙動を直接観察するため、蛍光標識したモノクローナル抗ミオシン抗体Fabフラグメントを、エレクトロポレーション法により細胞内に導入して超高感度テレビカメラにより画像取得した。どの変異細胞においても分裂溝への改変ミオシンの局在が観察できた。このことはリン酸化もATPase活性もミオシンが分裂溝に局在するのに必須ではないことを示唆している。 4)ATPase活性をもたないミオシンでは細胞内に繊維が観察された。この繊維は中間期の細胞ではほとんど動かないが、分裂に際して正常なミオシンと同じ速度で分裂溝に集合した。
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