6B4プロテオグリカン(6B4PG)は、受容体型蛋白質チロシンホスファターゼPTPζの細胞外領域に相当する分子であり、両者は選択的スプライシングによって生じ、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンとして合成される。前年度までに筆者は、神経突起伸展促進作用を示すヘパリン結合性成長因子pleiotrophin(PTN)が、PTPζ/6B4PGのリガンドであることを明らかにした。本年度は、PTPζ-PTN間相互作用の生理的意義を、大脳皮質神経細胞の分化過程に注目して解析した。PTPζの細胞内領域に対する抗体を用いて、培養大脳皮質神経細胞を免疫組織化学的に染色したところ、PTPζは神経成長円錐に大量に存在することが明らかになった。神経成長円錐は神経突起の先端に存在する構造物であり、神経突起伸展の制御に重要な役割を果たしている。このことから、PTNにより誘導される神経突起伸展において、神経成長円錐上のPTPζがPTN受容体として機能している可能性が考えられる。そこで、大脳皮質神経細胞を用いて、PTN誘導神経突起伸展を詳細に解析し、以下の結果を得た。PTPζの細胞外領域に対する抗体及びコンドロイチン硫酸Cは、PTN誘導神経突起伸展を著明に阻害した。PTPζに結合しているコンドロイチン硫酸は、この受容体のPTN結合部位の一部を構成しており、コンドロイチン硫酸CがPTPζ-PTN間の結合を特異的に阻害することが明らかになっている。また、チロシンホスファターゼ阻害剤Na_3VO_4は、PTNによって誘導される軸索伸展を強く阻害した。これらのことは、PTPζが大脳皮質神経細胞のPTN誘導神経突起伸展において、情報伝達受容体として機能していることを示唆している。
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