ゾウリムシParamecium caudatumの細胞内には大核と小核があり、有性生殖時に小核由来の受精核から新大核と新小核がつくられ、生殖系列は小核によって維持される。本年度は研究3年目の最終年度である。過去2年間の成果を基に研究を行い、以下の新たな研究成果があった。1)生殖系列維持のための小核の機能;減数分裂後の小核に由来する配偶核は接合後の口部形成に不可欠な機能を示す。昨年の成果から、この小核の機能は小核上の特定遺伝子によるものでないことが明かになった。そこで、本年度は接合後の口の形成に対して、小核が形態形成のためのオーガナイザー的機能をもつのではないかという考え方から、ゾウリムシ接合時に見られる囲口錐周縁微小管の蛍光観察を行い、配偶核形成から受精核形成過程の微小管の動向を解析した。その結果、核の行動とその後の運命にバスケット様構造が発見されるなど、微小管の関与が明らかにされた(日本動物学会、1998;5th Asian Conference of Ciliate Biology、1998)。この微小管の動きが口の形成に関連するかどうかが今後の研究課題である。2)減数分裂後、4小核の内の3小核が退化するが、レクチンWGAを微量注射するとこの退化が阻害することが過去2年の研究で明らかになった。本年度は、金コロイドを結合させたWGAの注射をして電顕観察したところ細胞質のライソゾーム系に結合し、レクチンは核退化系に直接作用していることが明らかになった。3)接合後の小核の決定機構;接合を完了した細胞内には4個の仮小核がある。これまで一般的な理解として、接合後の最初の細胞分裂までには3小核が退化すると考えられていた。しかし、第1分裂時に4仮小核すべてが残っているという結果がえられ、これまでの常識が覆った。さらに興味深いことに、4個の仮小核はどれも消えないが、細胞分裂時に分裂できる核は1核のみであるという驚く結果が得られた(日本動物学会、1998;日本原生動物学会、1998)。
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