上皮・間充織相互作用の分子機構:特に腺胃上皮細胞の増殖と分化の調節因子について

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08680787
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 深町 博史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (70134450)
• キーワード: 上皮・間充織相互作用 / 肝細胞増殖因子 / HGFアクティベータ- / 腺胃 / ペプシノゲン / グルココルチコイド / 増殖 / 分化

研究概要

1.腺胃上皮細胞の分化調節に関与する因子の同定:ラット胎児の未分化な腺胃上皮細胞を間充織非存在下で単独培養すると、上皮はカテプシンEを発現し、表層粘液細胞に分化した。一方、間充織と共に培養すると、上皮はペプシノゲンを発現し、頚部粘液細胞及び主細胞に分化した。これに対し、腺胃組織を同系の成体ラットの腎皮膜下に移植した場合には、表層粘液細胞とペプシノゲン発現細胞が分化したが、塩酸分泌細胞は分化しなかった。これらの結果は、(1)表層粘液細胞への分化は自律的に起こり、他の組織からの誘導は不要である、(2)頚部粘液細胞及び主細胞への分化には結合組織細胞からの誘導が必要である、(3)塩酸分泌細胞への分化には、液性因子以外の因子(例えば、神経からの誘導)が必要である、ことを示唆している。またグルココルチコイド(GC)に対する腺胃上皮の反応が、間充織細胞の共存によって大きく異なることから、頚部粘液細胞の分化を促進するGCの作用には、間充織細胞が関与していることが示された。
2.HGFアクティベータ-(HGFA)によるHGFの活性化: 肝細胞増殖因子(HGF)は不活性型で間充織から分泌され、HGFAによって活性化されることが知られている。このHGFAの発現について調べた。その結果、HGFAは消化管上皮で発現され、消化管間充織では発現されないこと、HGFAの発現は、大腸・小腸・腺胃・前胃の順に弱くなることが明らかになった。今後、この勾配の生物学的な意義について調べていきたいと考えている。

研究成果

• [文献書誌] Ichinose,M., et al.: "Substratum-dependent and region-specific attachment and proliferation of gastrointestinal epithelial cells in primary serum-free culture." Biochem.Biophys.Res.Commun.230. 537-541 (1997)
• [文献書誌] Shiraga,M., et al.: "Insulin-like growth factor-I stimulates proliferation of mouse uterine epithelial cells in primary culture." Proc.Soc.Exp.Biol.Med.215. 412-417 (1997)
• [文献書誌] Ichinose,M., et al.: "Proliferation,differentiation and morphogenesis of the fetal rat glandular stomach transplanted under the kidney capsule of syngeneic hosts." Develop.Growth Differ.39. 635-642 (1997)
• [文献書誌] Suzuki,T., et al.: "A case of Cowden's disease with a defined genetic alteration,namely,a chromosomal duplication at 15q11-13." J.Gastroenterol.32. 696-699 (1997)
• [文献書誌] 一瀬雅夫、他: "無血清初代培養系を用いたラット消化管上皮組織の増殖調節機構の解析" Therapeutic Res.18Suppl.1. 171-174 (1997)
• [文献書誌] Tsukada,S., et al.: "Induction of precocious pepsinogen synthesis by glucocorticoids in fetal rat gastric epithelia in organ culture: Importance of mesenchymes for the epithelial differentiation" Differentiation. (印刷中). (1998)