1.腺胃上皮細胞の分化調節に関与する因子の同定:ラット胎児の未分化な腺胃上皮細胞を間充織非存在下で単独培養すると、上皮はカテプシンEを発現し、表層粘液細胞に分化した。一方、間充織と共に培養すると、上皮はペプシノゲンを発現し、頚部粘液細胞及び主細胞に分化した。これに胎仔、腺胃組織を同形の生体ラットの腎皮膜下に移植した場合には、表層粘液細胞とペプシノゲン発現細胞が分化したが、塩酸分泌細胞は分化しなかった。これらの結果は、(1)表層粘液細胞への分化は自律的に起こり、他の組織からの誘導は不要である、(2)頚部粘液細胞及び主細胞への分化には結合組織細胞からの誘導が必要である、(3)塩酸分泌細胞への分化には、液性因子以外の因子(例えば、神経からの誘導)が必要である、ことを示唆している。 2.腺胃における肝細胞増殖因子(HGF)の機能:腺胃における上皮・間充織相互作用にHGFが関与していることが明らかになったが、その機能は明らかではなかった。腺胃の発生に伴うHGF及びその受容体の発現量の変化を一定量RT-PCRの系を用いて調べた結果、HGF及びその受容体の発現は胎齢15〜16日に始まり、17〜18日にピークに達し、出生直後に減少することが明らかになった。胎齢16日には腺胃上皮は未分化多層細胞から成るが、17〜19日に上皮は単層化し腺管が形成されることを考え合わせると、HGFは形態形成時の腺胃上皮の増殖・分化を調節していると思われる。 3HGFアクティベータ-(HGFA)によるHGFの活性化:HGFは不活性型で間充織から分泌され、HGFAによって活性化されることが知られている。HGFAの発現の変化について調べた結果、HGFAは消化管上皮で発現され、消化管間充織では発現されないこと、HGFAの発現は、大腸、小腸・腺胃、前胃の順に弱くなることが明らかになった。今後、この勾配の生物学的な意義について調べていきたいと考えている。
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