筆者らは既に、遺伝的距離が大きく隔たる2つの近交系メダカ系統(Hd-rRとHNI)の間で戻し交配を繰り返し、HNIのY染色体上の性決定遺伝子領域をHd-rRに導入したY-コンジェニック系統(Hd-rR.Y HNI)を樹立した。この系統のY染色体は体色の優性遺伝子Rや既知のDNAマーカーによってX染色体と判別可能なことに加え、潜在的の多くの遺伝子マーカーをもっており、メダカ性染色体の遺伝的解析に大変有用である。本年度の成果は以下の通りである。 1.XY雌をYコンジェニック系統の正常XY雄と交配しYY雄を得た。YY雄の判別にはX染色体とY染色体の間で多型を示す性連関のDNAマーカー、SL1(PCR産物の大きさでX染色体とY染色体の判別が可能)を用いた。このYY雄をENU処理し正常メスと交配することにより性決定に関わる突然変異のスクリーニングを試みた。 2.YY雄を1mMあるいは2mMのENUで処理したところ2mMではかなり死亡率が高くなることが判明した。また、処理後2週間は優性致死率が高いが、それ以降は低下した。現在までに体色と性を判別できるF1を129尾調べた結果、性決定、体色の突然変異体は得られていない。残る千数百個体については判定可能になり次第調べていく予定である。 3.以上の結果の他、性連関DNAマーカーであるSL1とSL2を用いた動原体マッピングによってSL1は動原体を挟んでSL2の反対側、すなわち長腕側にあることが判明した。これらの知見は、メダカの性決定遺伝子の探索や突然変異系統の維持方法に重要な示唆を与えてくれるものと期待される。
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