研究概要 |
1.昨年度の分子系統学的解析で無腸目が三胚葉性動物の起源近くに位置する動物である可能性を強く示唆する結果が得られたので、無腸目の発生学的研究を開始した。瀬戸内海で容易に得られる無腸目 Convoluta naikaiensis を研究材料に選び、その初期発生の過程を詳細に記載した。主として走査型電子顕微鏡を用いて発生段階表を作成した。発生は25℃で正常に進行し、産卵から孵化(約90時間後)までを以下の4期16ステージにわけることが出来た。 第1期(卵割期):St.1-St.7,第2期(陥入期):St8-St.10, 第3期(球形期):St.11-St.12,第4期(偏平期):St.13-St.16。 卵割は2つの大割球を基盤とするラセン卵割であった。割球の胚内部への侵入は動物極、植物極の2極で進行した。これらの過程は他の動物グループに類を見ないユニークなもので、動物における胚形成過程の進化を考える上で示唆に富む結果と言える。以上の知見を踏まえて、発生過程における細胞系譜をさらに後期まで明らかにするために、マーカー色素の注入による細胞追跡を試み、現在64細胞期(St.7)に至る細胞系譜を明らかにすることが出来ている。 2.無腸目は体表上皮細胞とその下の筋肉組織を隔てる基底膜構造が全く存在せず、表皮と筋肉が複合構造を形成しているという点でもユニークである。このような構造がどのような過程で生じるのかを知るために、アクチンに対する蛍光抗体による観察および透過型電子顕微鏡による観察で発生を追って表皮筋肉複合構造の形成過程を追跡中である。
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