アルツハイマー病(AD)脳の主要病理所見の一つである神経原線維変化(NFT)は、神経変性とその臨床表現型である痴呆と密接に関連している。それゆえ、NFT形成機構すなわちNFTの主要構成蛋白である高度リン酸化tau(PHFτ)の生成、沈着の機序解明は、ADの成因追求にとって必須である。我々は本研究において、AD脳NFT動物モデルとしてヒトτ高発現系トランスジェニックマウス(Tgマウス)を作製した。まず、ヒトτcDNAとτ protein kinase IのcDNAをCITE DNAを用いて並列につないだものをCMV-1E enhancer/β-actin promoterの下流に組み込んだconstructを作製し、マウス受精卵に導入した。誕生した仔マウス(n=36)の尾DNAをPCRとSouthern blotにて解析し、ヒトτcDNAの導入を確認したfounder(n=4)を得た。これらfounderよりF1を得て、Northern blotにて発現mRNAを検索ししたところ、発現量は内因性マウスτのmRNAと同レベルかそれ以下であった。F1マウス脳組織の免疫組織化学染色による発現τ蛋白は検出レベル以下であった。以上の結果より、このconstructは脳内τ蛋白高発現系の作製には適なさいと判断した。そこで、脳内高発現に有効と証明されたマウスprion遺伝子プロモーターを用いた高発現系の作製に着手した。今回は、家族性アルツハイマー病の関連遺伝子プレセニリン1cDNAをマウスprion遺伝子プロモーターの支配下に組み込んだconstructを作製し、Tgマウスを作製したところ、プレセニリン1の脳内高発現に成功した。今後このシステムを用いて、τの脳内高発現系の作製に取り組み、AD脳NET動物モデルを確立する予定である。
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