二領域からそれぞれtotalRNAを抽出し、3'末端をPCRにより増幅して、ゲル上で一方の領域に特有なcDNAをクローニングするDifferencial Displayという方法は既に確立したものであるが、興味ある分子を発現できるかどうかは、最初にどの様な差を検出しようとするかによって決まる。海馬の各領域は、特徴的な神経細胞によって構成されており、各々の領域を脳切片より別々に切り出すことが可能である。本研究では、ラット海馬を CA1+海馬台 と CA3+歯状回に切り分けて、各領域からそれぞれtotalRNAを抽出し、3'末端をPCRにより増幅してゲル上で一方の領域に特有なcDNAをクローニングを試みた。その結果、得られた数クローンのcDNA断片より、mRNA分子の発現領域と時期を知るために、イオウのRI標識の入ったcRNAを作り、出生後直後の脳でin situハイブリダイゼーションを行った。その内の一つのクローン(CA1T10α)は、海馬ではCA1領域に特異的に発現しており、DNA配列を調べた結果、未知の分子であることが確かめられた。クローン(CA1T10α)の構造機能解析のために、残されたcDNAの全配列を調べ留努力の結果2kbpまでの塩基配列を決定することができた。ノーザンブロットの結果からmRNAの全長は4.1kbpのと見積もられているので、約半分までは調べられたことになる。これまでのところ、塩基配列から類似遺伝子は見つかっていない。in situ hybridization結果からは、CA1T10αは海馬CA1海馬台、それに続いて新皮質の第5層の神経細胞が発現していることが分かった。
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