研究概要 |
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)は間葉系細胞の増殖・分化を促すのみならず、培養神経細胞の突起伸長や生存を促進することが知られているが、脳内におけるbFGFの生理作用についてはほとんど明らかにされていなかった。そこで、本研究ではまずbFGF阻害物質(血小板第4因子,PF4),bFGF中和抗体,[^<125>I]bFGF結合実験,ヘパリン化bFGFを用いて、スナネズミの虚血海馬における外来性及び内因性bFGFの機能を検索した。[^<125>I]bFGFと海馬組織内のbFGF受容体の親和性は虚血時に正常の17倍にも増加したので、虚血海馬においては内因性bFGFとその受容体との結合が神経細胞を保護する上で重要な役割を担っていることが判明した。また、[^<125>I]bFGFの受容体結合はPF4によって阻害された。さらに虚血時にPF4あるいはbFGF中和抗体をスナネズミの側脳室内へ持続注入すると、海馬CA1領域の神経細胞死が有意に助長された。従って、脳虚血時に一過性に増加する内因性bFGFならびにその受容体が神経細胞が生存する上で必須の因子であることが証明された。また、外来性のヘパリン化bFGFは海馬CA1領域の虚血性神経細胞死を有意に抑止するのみならず、PF4やbFGF中和抗体の神経毒性もほぼ完全に阻害することがわかった。本研究では、さらにヘパリン化bFGF脳室内投与の作用と他の神経保護因子や薬物(インターロイキン6,血小板由来増殖因子,β-エストラジオール,プロスタグランディンI_2誘導体,ジンセノサイドRb_1,上皮増殖因子,エリスロポエチン,インターロイキン3)の脳室内投与の効果とを比較検討した。その結果、内因性bFGFの神経保護効果とは異なり、外来性のヘパリン化bFGFの虚血海馬保護作用は、他の因子・薬物と比較してそれほど強くないことが判明した。
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