研究概要 |
線維芽細胞増殖因子(以下FGF)の神経分化に対するin vivoでの役割を解明するため、FGFシグナルを増強、あるいは停止させるウイルスを以下のようにして作成した。ベータガラクトシダーゼの遺伝子LacZを組み込んだspleen necrosis virus(Mikawa et al,1991)を用い、IRESを介してマーカーの上流に、(1)FGF1、(2)FGF受容体タイプ1、(3)FGF受容体タイプ1のチロシンキナーゼを取り除いた変異型、を組み込んだ各種のプラスミドを作製し、トランスフェクション後、それぞれのウイルス産生細胞のクローニングを行った。ウイルスを感染させた細胞で、二重免疫染色法にてベータガラクトシダーゼおよび目的遺伝子の両方が発現し、ウエスターンブロットにて、タンパク量で内因性の50倍以上で発現していることを確認した。コントロールにはLacZを組み込んだだけのウイルスを用いた。各ウイルスを別々に、ニワトリ胚2日目の神経管内に微量注入し、視蓋の神経幹細胞に感染させ、FGFシグナルを変化させることで、胚7日目までの発生経過にどんな影響が及ぶかを検討した。FGFシグナルを増強するウイルス(1)および(2)が感染したコロニーにおいて、細胞分裂数には変化がなかったが、細胞の脳表への移動(migration)が抑制され、神経分化した細胞が激減していた。FGFシグナルを停止させるウイルス(3)が感染した細胞は、細胞分裂が抑制され、小さなコロニーが脳室側底部に形成されていた。ウイルスによる外来遺伝子導入法を用い、in vivoにおける細胞系譜を解析した本研究により、FGFシグナルはニワトリ胚の視蓋においては、神経分化を抑制する役割を果たしていることが判明した。
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