研究概要 |
これまで、哺乳類では胎仔の外科的手術は極めて困難とされており、発生過程の分子及び遺伝子の機能解析に大きな障害となってきた。本研究では子宮外手術により母体内でマウス胎仔の脳内に各種神経接着分子に対する特異抗体、あるいは各種転写因子のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンス)を微量注入して、それらの作用をなくした時に脳の形成過程にどのような異常が生じるかを組織学的に解析し、そこから、当該分子の機能的役割を明らかにすることを目的としている。平成8年度はその前段階として、脳のどの部位に焦点をあて、実験をおこなうかを調べた。 ラット胎仔では、大脳皮質の神経回路の基本構築は胎生14日-18日にかけて確立する。この時期に免疫グロブリンスーパーファミリーに属する3種類の神経接着分子、NCAM-H、L1、TAG-1がそれぞれどのような局在を示すかを免疫組織化学的に調べたところ、NCAM-Hは胎生14日より大脳皮質原基に広く局在するのに対し、L1は胎生17日より出現する視床-皮質路の線維に、また、TAG-1は大脳皮質からの遠心性線維に胎生14日より、また大脳皮質間の交連線維に胎生17日より、それぞれ特異的に局在していた。さらに視床-皮質路の軸索が選択的に伸長する大脳皮質原基のsubplateに特異的に発現する分子について調べたところ、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの一種であるニューロカンが視床-皮質路の軸索の侵入に先だって胎生16日よりsubplateに局在することを見いだした。以上の結果は、すでにJournal of Comparative Neurologyに受理され、今年度中に出版予定である(Fukuda,Kawano,Ohyama Li,Takeda,Oohira and Kawamura,1997 inpress)。来年度はいよいよ子宮外手術法を用いてマウス胎仔の側脳室内にL1に対する抗体を微量注入して、脳に生じた変化を解析する予定である。
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