研究概要 |
現在においても,「痛覚伝導路は脊髄視床路である」ということに教科書はなっている.しかし,近年の神経軸索を流れる物質が種々に発見されて,より詳細な神経結合の解析が可能になった.したがって,実験的に,痛覚伝導路には新しい伝導路を与えなければならない.すなわち,phaseolus vulgaris leucoagglutinin(PHA-L)による順行性軸索流法によって,脊髄から上行する線維は視床はおろか,前脳(視床前野,側座核.中隔核,扁桃体,淡蒼球外節,研究者によっては帯状回前方部)に至る.このような所見は我々もPHA-Lを用いたラットの実験で得ている.本研究の目的の1つは,ラットと同様な実験をサルで行うことになっている.PHA-Lをサルの脊髄に注入して1ヶ月の生存後において,わずかな標識脊髄繊維が中脳の高さまで達するのみであった.そこで,PHA-Lより短い生存期間ですむbiotinylated dextran amine(BDA)を用いてラットで同様な実験を行った.その結果はPHA-Lで得たものと同じなので,BDAをサルに用いた.BDAを用いてもサルの脊髄上行性線維の全体像をみるにはBDA注入後1ヶ月以上の生存期間が必要であることが分かった.現在,生存期間を1ヶ月半にした実験を行っているところである.これまで,サルの所見は,帯状回や中隔核への脊髄投射線維は認めてないが,それを除けば,ラットの所見と類似していた.これらの所見をもとにしても,従来の「痛覚伝導路は脊髄視床路である」という概念を変える必要があるように思える.
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