研究概要 |
多発性硬化症(MS)などの免疫性神経疾患の病変形成ならびに炎症の収束にはサイトカインが深く関与していることが明らかになりつつある.しかしサイトカインは生体内で微量で働く生理活性物質であるため,実際の病変でその量,局在を解析することは困難であることが多い.我々は,ラット自己免疫性脳脊髄炎(EAE)におけるサイトカインmRNAをcompetitive PCRで解析することにより,in vivoでのサイトカインの動態を明らかにし,EAEの病態への関与を検討した.Lewisラットにモルモットミエリン塩基性蛋白を免疫すると急性単相性のEAEが発症する.EAEの早期,極期,回復期における脊髄内でのサイトカインの発現をcompetitive PCRを用いて定量した.その結果,炎症性サイトカインTNF-α,IFN-γはEAE早期に増加し,TNF-αは極期,回復期に急減し,IFN-γも漸減した.一方,抑制性サイトカインTGF-β1はEAEの臨床症状に平行して増減し,極期に最大となり回復期にも増加していた.さらにIL-10はEAEの早期に増加し,極期から回復期に減少した.以上の所見から,EAEの早期は炎症性サイトカインが優位に働き,極期,回復期には抑制性サイトカインが優位に働いて炎症が収束に向かうものと考えられた.次に,ラットにモルモット脊髄ホモジェネートを免疫し,少量のサイクロスポリンA(CsA)を投与すると,再発性のEAEを作製することが出来る.この動物モデルを用いて,MSで起こる症状の再発がどのようなメカニズムで起こるのかを,急性単相性EAEとのサイトカインプロフィールを比較することによって考察した.その結果,TNF-αがEAEの臨床症状と相関して変化していることが確認された.さらにIFN-γにはこのような相関はみられなかった.また抑制性サイトカインの発現が不十分であることもEAEの再発に関与していることが示唆された.
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