研究概要 |
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は一般的に細胞周期の調節に重要な役割をはたしているが,その中にはCDK5のように増殖能のないニューロンに高い発現を示すものもある。私は今まで主にCDK5についてマウス神経系におけるmRNAの発現(Ino et al.,Brain Res.,661,196-206,1994),蛋白質の局在(Ino and Chiba,Brain Res.,732,179-185,1996)等について明らかにしてきた。CDK5はp35と呼ばれる非サイクリン蛋白質によって活性化されることが報告されている。また,脳には抗サイクリンE抗体に反応性を示す蛋白質が存在することも報告されている。私は異なるエピトープを認識する2種類の抗サイクリンE抗体を用い,この蛋白質がサイクリンEそのものであること,ニューロンの核に局在することを見出した。前嗅核および梨状皮質に特に強い反応を認めたが,神経系全般に広く分布する。また,免疫沈降法によりサイクリンEがCDK5およびp35と結合する可能性のあることを見出した。CDK5はニューロンの核および細胞質の両者に局在を示し,p35は細胞質に高い局在を示した。生体内においてサイクリンEはCDK5と複合体が形成している可能性が高いが,p35と複合体をを形成しているかについては疑問の余地がある。サイクリンEとCDK5の神経系内における分布は必ずしも一致していないので,サイクリンEは他のCDKと,CDK5は他のサイクリンとも複合体を形成している可能性は高い。現在までのところCDK5がサイクリンEのみによって活性化されるか否かについては不明である。サイクリンEは細胞周期においてG1期からS期への移行に必要と一般に考えられているが,ニューロンに存在するサイクリンEは全く違った機能をもっていると考えられる。興味あることに,成熟動物の脳内で唯一細胞分裂が盛んに行われると思われているsubventricular zoneにはほとんどサイクリンEの局在は認められなかった。
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