神経系は多種類のニューロンによって構成されており、それぞれのニューロンは固有のセットの遺伝子群を発現することによって、生理的な機能を獲得している.近年の研究によって、一連の転写因子がそのニューロンに特異的な形質を構成する遺伝子群を活性化することによりニューロン特異的な最終分化産物を産成させていることが明らかになってきた. 線虫C.elegansは神経系についての基本的記載が充実しており、すべてのニューロンの細胞系譜および軸索走行が知られている.線虫のニューロン種決定機構を明らかにするため、転写因子unc-86のニューロン種特異的発現制御様式をcisエレメントの解析により明らかにすることを目的とする.unc-86遺伝子の蛋白質コード領域を含むゲノムDNA断片をクローニングした.これにin frameになるように、GFP(green fluorescent protein)を挿入し、基本となるレポータープラスミドとし、発現パターンが抗体染色で示されたUNC-86のそれと合致することを確認した.基本となるレポーター遺伝子の中のunc-86遺伝子の5'領域をいろいろな長さで部分的に欠失したレポーターを作成した所、部分的に発現が消失したもの、および腹側運動ニューロンに異所性の発現を示したものが得られた.それぞれ、activatorおよびrepressorの結合部位に相当するものと思われる.また、野性型のcisエレメントで発現したUNC-86/GFPは、unc-86変異体を部分的に表現型回復すること、および、異所性発現の見られたトランスジェニック動物で運動ニューロンの分化異常を示す運動異常を示したことから、これらの融合蛋白質が機能的に働き得ることも示された.
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